航海者、博物館の館長になる

航海に出ていたはずが、気づけば博物館の館長になっていました。いったい、どこで進路を間違えたのでしょう。

そもそもの始まりは、発見物の考察でした。調べていると、発見物そのものより、その土地に暮らした人々や、そこに残された歴史のほうが気になってくることがあります。

とはいえ、考察に何でも詰め込むわけにはいきません。話を広げすぎると、何について書いていたのかわからなくなってしまいます。それなら、書ききれなかった話を別の場所に残しておけばいい。

そう思いついたのが「博物館」です。

最初は、ちょっとした展示室を作るつもりでした。ところが、いざ作り始めると、展示室の雰囲気が気になります。壁の色はどうしよう。写真はどこに飾ろう。案内板はもう少し上品なほうがいいかな。

しまいには、展示カードの高さが数行分違うことまで気になり始めました。おかしいですね。私は冒険者だったはずなんですが。

そんなこんなで、ようやく博物館が開館しました。

記念すべき第1展示は、古代ローマの町「ノイマーゲン=ドローン」。モーゼル川沿いに残された歴史をたどる展示です。

そして第2展示は、ロシアの金属職人「リシツィン兄弟」。サモワール作りに携わった兄弟と、トゥーラの職人たちのお話です。

ワイン船からサモワールへ。展示の組み合わせに統一感がないような気もしますが、世界中を旅する博物館なのですから、まあ、いいでしょう。むしろ、次に何が展示されるのか、館長にもわかりません。

それにしても、博物館の運営というのは意外と忙しいものです。

展示の題材を探し、資料を調べ、文章を書き、写真を選ぶ。ようやく完成したと思えば、今度はスマホでの見え方が気になります。

展示室の見栄えが整ったところで、今度は発見物の考察から展示へ案内する道を作ります。航海では目的地までの道順を考え、博物館では訪問者の道順を考える。結局、どこにいても航路を引いているような気がします。

ところで、普通の博物館なら展示品は収蔵庫から運んでくるのでしょう。

うちの場合は、クエストを受けて海を渡ります。展示の題材を探すために、館長自ら船に乗って世界を回るのです。交通費は自己負担。船員には給料も払わなければなりません。

しかも、帰り道で別の発見物が気になれば、平気で寄り道を始めます。これでは展示品の搬入予定なんて、あってないようなものです。

現在の展示は、まだ二つ。

小さな博物館ですが、航海を続けていれば、きっと少しずつ展示も増えていくでしょう。

ただ、一つだけ困った問題があります。

館長が展示の準備に夢中になると、冒険者がまったく出航しなくなるんですよね。そして冒険者が出航しなければ、博物館の展示も増えません。実に見事な悪循環です。

困ったことに、館長と冒険者は同じ人なので、誰かに仕事を任せるわけにもいきません。

とりあえず、しばらくは博物館の扉を閉めて、海に戻ることにしましょう。次の展示の題材が見つかるまでは。

……いや、待ってください。

それって結局、博物館の仕事で出航するってことでは?

どうやら私、もう普通の冒険者には戻れないようです。

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