発見物情報
補足
アブ・シンベル神殿の入り口にそびえる、四体の巨像。すべてラムセス2世の像である。高さは20mあり足元にはファラオの親族が彫られている。
考察
エジプト南部のヌビア地方にあるアブ・シンベル大神殿は、古代エジプト第19王朝のファラオ、ラムセス2世によって紀元前13世紀に築かれた岩窟神殿である。その正面には、高さ約20メートルに達する4体の巨大な座像が並ぶ。いずれもラムセス2世自身を表しており、岩山を掘り込んで造られた神殿と一体になっている。
巨像の足元には、王妃ネフェルタリや王母トゥヤ、王子や王女たちの小像も刻まれている。王族の姿を残す一方、その大きさには圧倒的な差があり、王を中心とする秩序が視覚的に示されている。エジプト南方のヌビアにこれほど壮大な神殿を築いたことには、王の威光と支配力を広く知らしめる意味もあったと考えられる。
4体のうち1体は、古代に起きたとみられる地震によって頭部や上半身が崩落した。現在もその破片は像の足元に残されており、神殿が歩んだ長い年月を物語っている。大神殿の内部にはアメン・ラー、ラー・ホルアクティ、プタハ、神格化されたラムセス2世の像が安置され、年に2度、奥の聖所まで太陽光が差し込む構造でも知られる。巨像は単なる王の記念像ではなく、王権と神々の結びつきを表す神殿全体の一部なのである。
この巨像には、現代における大きな転機もあった。20世紀にアスワン・ハイダムの建設が進むと、神殿はダム湖に水没する危機に直面した。そこでユネスコが主導する国際的な救済事業により、神殿は巨大な岩塊に分割され、元の場所より約65メートル高い地点へ移設された。1968年に移設が完了し、1979年には周辺のヌビア遺跡群とともに世界遺産に登録されている。
古代の王が自らの権威を後世に伝えるために築いた巨像を、今度は現代の人々が国境を越えて守り抜いた。アブ・シンベルの巨像には、古代エジプトの王権だけでなく、文化遺産を未来へ引き継ごうとする人々の歴史も刻まれている。

