補足
「ひぶん」。ビストゥン山の断崖に彫り込まれた巨大な碑文。アケメネス朝ペルシャのダレイオス1世の戦勝記念に作られたものだという。
考察
ビストゥン碑文は、現在のイラン西部、ケルマーンシャー州の岩壁に刻まれた、アケメネス朝ペルシアのダレイオス1世による巨大な記念碑である。紀元前6世紀末、王位に就いたダレイオスは各地で起きた反乱を鎮圧し、その経緯と自身の正統性を後世に伝えるため、岩壁に浮彫と碑文を残した。
浮彫には、弓を持つダレイオスが倒れた敵を踏みつけ、その前に捕らえられた反乱指導者たちが並ぶ姿が描かれている。上方には神アフラ・マズダーを象徴する有翼の姿があり、王の支配が神の加護を受けていることを示している。
碑文は古代ペルシア語、エラム語、バビロニア語の3言語で記され、王の系譜や反乱の経過、勝利の記録などが述べられている。ただし、これは王自身が語らせた記録である。反乱者を偽りの王と位置づける記述には、ダレイオスの即位を正当化する政治的な意図が込められていたと考えられる。
この碑文が再び歴史の表舞台に現れたのは19世紀のことである。イギリスのヘンリー・ローリンソンらによる調査と研究は楔形文字の解読を大きく進め、古代オリエントの文献を読み解く重要な手がかりとなった。その役割から、エジプトのロゼッタ・ストーンにたとえられることもある。
古代の王が自らの権威を示すために刻ませた言葉は、数千年後には失われた言語を読み解く鍵となった。ビストゥン碑文は、王権の記念碑であると同時に、古代世界の歴史を現代へ伝える貴重な史料なのである。

