補足
土器製の円筒状印章。なにに使われたのかは定かではない。顔料を塗って体に付けたり、柔らかい状態の土器の上に転がして、模様を付けたりしたのだろうか?
考察
古代メソアメリカでは、粘土を焼いて作った印章が、さまざまな時代や地域で用いられていた。平らな面を押し付ける印章と、円筒の外周に刻まれた模様を転がして写し取るローラー印章があり、今回の発見物は後者を思わせる。円筒を回転させれば同じ図柄を連続して転写できるため、繰り返し模様を作るのに適した構造だった。
その歴史は古く、プリンストン大学美術館には紀元前1200〜900年頃のオルメカ文化に属する土器製円筒印章が収蔵されている。また、ロサンゼルス郡立美術館にも紀元前800〜500年頃のオルメカのローラー印章が残る。こうした資料は、メソアメリカで印章を用いる技術が長い歴史を持っていたことを示している。
印章の用途として考えられているのが、身体や布、土器への装飾である。顔料を表面に付けて模様を写し取れば、複雑な図柄を繰り返し描くことができる。身体装飾は儀礼や集団の帰属を示す手段だった可能性もある。ただし、すべての印章が同じ目的で作られたわけではない。
アメリカ自然史博物館によるメキシコのチコナウトラ遺跡の研究では、幾何学模様や動物を表した土器製印章が調べられている。印章の出土例に比べ、それで模様を付けたと判断できる土器が少ないことから、身体や衣服の装飾に使われた可能性が指摘された。布や皮膚に描かれた模様は考古資料として残りにくく、用途の解明を難しくしている。
図柄にもさまざまな種類がある。幾何学模様のほか、動物や超自然的存在を思わせる意匠も知られ、宗教観や社会的な象徴との関わりが考えられる。ただし、個々の図柄が何を意味したかは慎重に判断しなければならない。
同じ円筒形でも、メソポタミアで行政や所有権の確認に使われた印章とは文化的背景が異なる。メソアメリカの印章も単なる模様付けの道具だったとは限らないが、具体的な役割を特定するには、出土状況や顔料の痕跡、転写された文様との比較が欠かせない。

