クエストシリーズ「ハンムラビ法典」#3 最終話
発見物情報
補足
バビロニア神話における創世記叙事詩。数多くの神々の名が記されており、かつて栄えたバビロン帝国が他の都市に比べ優れているかが記されていると思われる。
考察
『エヌマ・エリシュ』は、古代バビロニアでアッカド語によって記された天地創造叙事詩である。題名は冒頭の「高みにおいて、まだ天が名づけられていなかったとき」という言葉に由来する。全七枚の粘土板、約千百行からなる作品で、世界の成立とバビロンの守護神マルドゥクが神々の王となる過程を描いている。
物語の始まりには、淡水を象徴するアプスーと、原初の海を象徴するティアマトが存在した。二つの水が混ざり合うことで神々が誕生するが、若い神々の騒がしさに怒ったアプスーは彼らを滅ぼそうとする。知恵の神エアは魔術によってアプスーを倒し、その後、妻ダムキナとの間にマルドゥクが生まれた。
ティアマトは神々に戦いを挑み、キングーを軍勢の指揮官に立てる。これに対し、神々の王となることを条件に戦いへ赴いたマルドゥクは、嵐と風を武器にティアマトを打ち破った。そして、その身体を二つに分けて天と地を形づくり、星々の配置や暦を定めて世界に秩序をもたらす。
人間の創造には、反乱に加わったキングーの血が用いられる。人間は神々に代わって労働し、神殿を維持する存在として生み出された。この発想は、下級神々の労働を軽減するために人類が造られる『アトラハシス叙事詩』とも共通している。
本作の中心にあるのは、天地の成立だけではない。神々はマルドゥクの勝利をたたえて五十の名を授け、バビロンを神々の重要な居所として位置づける。都市の守護神を最高神へ高める物語は、バビロンの宗教的権威を正当化する役割を担っていた。成立は紀元前12世紀頃、ネブカドネザル1世の時代とする説が有力だが、年代には議論がある。現存する写本の多くは、それより後の時代に書き写されたものである。
旧約聖書『創世記』にも原初の水や世界の秩序ある形成が描かれる。しかし、『エヌマ・エリシュ』では神々の争いと勝利が創造につながるのに対し、『創世記』では唯一の神が言葉によって世界を整える。両者の比較は古代西アジアの思想的な交流を考える手掛かりとなるが、物語の類似だけで直接の借用関係を断定することはできない。
『エヌマ・エリシュ』は、世界がどのように生まれたかを語ると同時に、その世界を誰が統べるべきかを示した作品だったのである。

