補足
変形真珠に、彫刻的で豪華なデザインを組み合わせたペンダント。自然物、動物、神話をテーマにした図案が多い。バロックの名称は「歪んだ真珠」というポルトガル語に由来する。
考察
バロック真珠とは、真円ではなく不規則な形をした真珠の総称である。現在では丸い真珠と異なる個性的な形が魅力とされるが、16世紀後半から17世紀初頭のヨーロッパでは、その独特な輪郭を生かした豪華な宝飾品が盛んに制作された。ルネサンス期の金細工師たちは、真珠の形を欠点として隠すのではなく、想像力を刺激する素材として積極的に利用したのである。
代表的なのが、真珠を動物や神話上の生き物の胴体に見立てたペンダントである。ニューヨークのメトロポリタン美術館には、16世紀末から17世紀初頭に制作された、ケンタウロスをかたどった作品が所蔵されている。不規則な真珠を半人半馬の胴体として使い、金の細工やエナメル、ルビー、サファイアを組み合わせている。真珠そのものの姿を生かしながら、空想上の生き物へと仕立てた作品である。
同館には、オウムや猫を表現したペンダントも残されている。とりわけオウムを題材とした宝飾品は、当時のスペインでも好まれ、16世紀の財産目録にも類似する装身具の記録が見られる。こうした作品では、宝石の大きさや価値だけでなく、自然の形から何を思い描き、どれほど巧みに造形へ取り込むかが職人の腕の見せどころとなった。
「バロック」という名称は、不規則な真珠を意味するポルトガル語の「barroco」に由来するという説が広く知られる。ただし、語源には諸説あり、現在の美術史で使われるバロック様式と、これらの真珠を用いたルネサンス期の宝飾品を単純に同一視することはできない。
宝飾品は富や身分を示すためだけのものではない。珍しい形の真珠に動物や神話の姿を見いだした装身具には、身につける人の好みや遊び心、そして職人の創造力が込められている。均整の取れた真珠だけが美しいわけではないという感覚は、自然の不完全さを独自の美へ変える、当時の宝飾文化の豊かさを伝えている。

