クエストシリーズ「ゲイボルグ」#4
発見物情報
補足
ケルトの言い伝えに残る、死を告げる妖精バンシーの名を冠した宝石。魔槍ゲイボルグにはめこまれていたが、不吉を恐れて宝石だけ外され、地中深く埋められていた。
考察
バンシーは、アイルランドの民間伝承に登場する、死の訪れを知らせる女性の超自然的存在である。その名はアイルランド語の「bean sí」に由来し、「妖精の丘の女」あるいは「異界の女」を意味する。妖精と訳されることも多いが、人に悪戯をする小さな妖精とは異なり、人間の死と深く結びついた存在として語られてきた。
バンシーの最も特徴的な行動は、夜に響く悲しげな泣き声や嘆き声である。その声を聞くと、家族や一族の誰かが間もなく亡くなると信じられていた。ただし、バンシー自身が人を殺すわけではない。死を予告する、あるいは死者を悼む役割を担う存在であり、恐怖だけでなく悲しみや喪失の感情とも結びついている。
伝承によっては、特定の家系に代々付き従うともいわれる。姿は白や灰色の衣をまとった若い女性、長い髪の老女などさまざまで、姿を見せず声だけが聞こえる話もある。こうした違いは、アイルランド各地で語り継がれた民間伝承が、一つの決まった物語ではなかったことを示している。
その嘆き声は、アイルランドの葬送習俗「キーニング」とも関係づけられている。かつて葬儀では女性たちが声を上げて死者を悼み、悲しみを表現する慣習があった。バンシーの泣き声は、こうした人間の慟哭と重ねて理解されてきた。死の前触れとしての恐ろしさと、残される者の悲しみが一つになった存在なのである。
クーフーリンが活躍するアルスター物語群にも、戦士の死を予告する超自然的な女性や、戦場に現れる女神が登場する。しかし、そうした存在をすべて後世のバンシーと同一視することはできない。英雄伝承と民間伝承は共通する死の予兆という主題を持ちながら、それぞれ異なる形で受け継がれてきた。
魔槍ゲイボルグは『クーリーの牛争い』に登場し、クーフーリンが友フェルディアとの決闘で用いた恐るべき武器として知られる。体内で棘を広げる槍として描かれるが、そこに「バンシーの涙」という宝石が埋め込まれていたという記述は、確認できる古典的な伝承には見当たらない。
ゲーム内の宝石は、英雄を死へと導く魔槍と、死を嘆くバンシーの伝承を結びつけた独自の物語設定と考えるのが自然だろう。死を知らせる者の涙が、命を奪う武器に飾られていたという発想には、クーフーリン伝説に通じる悲劇性が込められている。

