補足
14世紀に修道士ラヴレンチーにより転写された、『原初年代記』の写本。
一部の年代の記録が除かれているが、理由は不明である。
考察
ラヴレンチー写本は、1377年に修道士ラヴレンチーらによって書き写された、古代ルーシの歴史を伝える年代記写本である。スーズダリ・ニジニ・ノヴゴロド公ドミトリー・コンスタンチノヴィチの依頼で制作され、14世紀初頭までの出来事が収められている。羊皮紙に記されたこの写本は、成立年が明確なロシアの年代記として現存する最古のものとされ、現在はサンクトペテルブルクのロシア国立図書館に所蔵されている。
収録内容の中心となるのは、古代ルーシの起源を伝える『原初年代記』である。ラヴレンチー写本には現存する最古の写本系統の一つが残されており、キエフを中心とした初期の歴史から、ウラジーミル・スーズダリ地方の諸公の動向までをたどることができる。また、ウラジーミル・モノマフによる子孫への教訓も伝えており、政治史だけでなく、当時の君主が重んじた倫理や統治観を知る手がかりとなっている。
一方、この写本には年代の記録が欠けている箇所がある。898年から922年、1263年から1283年などに相当する部分が代表的だが、欠落の原因は一様ではない。現存する写本から失われた葉によるものもあれば、書写の段階で省略された可能性がある部分もあり、研究者の間でも判断が分かれる箇所が残されている。したがって、すべてが意図的に削除されたと考えることはできない。
同じ『原初年代記』を含むイパーチー写本と比較すると、文章や収録された記録の違いが見えてくる。歴史を伝える写本は、古い記録をそのまま複製したものとは限らず、書写や編纂、保存の過程で姿を変えてきた。ラヴレンチー写本に残る空白もまた、過去の出来事だけでなく、歴史がどのように受け継がれてきたのかを考えるための重要な手がかりなのである。

